星新一と空飛ぶ円盤研究会。『宇宙にいちばん近い人』について。

子供のころ、僕にとって小説家とは星新一のことだった。小学生のときに星新一の作品を知り、あまりの面白さに衝撃を受け、星作品の虜になった。これほど短いのにどうしてこんなに面白いのか? もう、魔法としか思えなかった。

そのとき手に入る星作品をすべて読みおえると、また最初からくり返し読んだ。他にこれ以上面白い小説があるとは、当時の僕には想像できなかった。ほぼまる暗記するほど星作品を読みふけった。

さらに、これを書いた星新一という作家はどういう人なのだろう、と興味が作品から作家に移りはじめた。そこで星さんのエッセイも読むようになった。

そのエッセイの中で、若かりし星新一が空飛ぶ円盤研究会の会員になったことがきっかけで小説家になったということを知った。

空飛ぶ円盤研究会とは?

この空飛ぶ円盤研究会には大勢の著名人が入会していた。石原慎太郎や三島由紀夫も会員だったのだ。三島由紀夫は 、『美しい星』(この前リリーフランキーさん主演で映画になった)という SF 作品を書いてるのだが、それはこの空飛ぶ円盤研究会での経験がもとになってる。

そんな怪しそうな会にそれほどの有名人が参加するとは、ちょっと今の感覚では考えられない。昭和30年代に、インテリたちが集まって空飛ぶ円盤について議論する。ノスタルジックかつ不思議な光景だ。だから非常に興味が湧いた。

星新一デビューのきっかけは?

そしてこの空を飛ぶ円盤研究会から会報誌出すことになった。せっかく会報誌を出すのだ。SF小説も載せよう。そんな話になり、星さんに声がかかった。そこで星新一が、『セキストラ』という短編書いたのだ。この作品が江戸川乱歩の目にとまり、星新一は小説家となったのだ。 ちょっとすごくないですか、この話。

さらに僕が小学生の高学年になると、ようやく他の作家の作品(SFかミステリーばっかだけど)にも手をだすようになった。数々の小説を読み続けるうちに、自分も小説家になれるんじゃないか、と大胆にも考えるようになった。野球少年がプロ野球選手に憧れるようなものだ。しかし大人になるにつれ、その願望が消えていくのが世の常だ。ただ僕に関しては、なれるわけがないというマイナスの思考は一切働かなかった。僕は元来思い込みの強い性格だった。

しばらくして筒井康隆先生のエッセイで「大衆小説は三十歳からではないと書けない」という一文を目にし、「なるほど、そうか。じゃあ二十代は何をしよう」と思案していると、小松左京先生が作家になる前に漫才やコント台本を書いていたという情報を得た。僕は、小説と同じくらいお笑いも好きだった。それに放送作家出身の小説家はたくさんいる。小説家になるにはまず放送作家をやるのが早道なのだろうと、二十代は放送作家をやることにした。僕の人生は、この偉大なる三先生の影響をもろに受けまくっている。

そして二十代を放送作家として過ごし、そろそろ三十歳も間近という年齢になった。ただこの頃はあまりの忙しさで、三十歳から小説を書くことなどすっかり忘れていた。忙しいとは恐ろしいものだ。だがリーマンショックのせいで、仕事が減って暇になった。そこでふと、「あっ、そうや。小説家になりたかったんだ」と思い出したのだ。ありがとう、リーマンショック。

そして『アゲイン』という小説を書き上げ、幸運にもそれが賞をとりデビューすることができた。

僕はデビュー前に最初に書く三作品を決めておいた。(もうすぐその三つめが世に出せる)。その中の一つが、星新一と空飛ぶ円盤研究会の話だ。ここにもし宇宙人があらわれたらどうなるだろう。デビュー作の次にこれを書くことにした。

80年代の少女マンガ

宇宙人のバシャリと、星新一をモデルにした登場人物『星野新一』を出すことは最初に決めた。星野新一が作家になる前に空飛ぶ円盤研究会でバシャリと出会い、それがきっかけで小説家になるという話だ。だが、いざ書く段階にいたってはたと気づいた。これだけでは長編にならない。長編にするには話の軸が弱すぎたのだ。

頭をひねっていると、もう一つ自分が書きたいテーマがあったことに気がついた。それが、恋愛ものだ。それも八十年代の少女漫画のようなお互いの恋愛感情に気づくまで十巻以上かかるような、「はよ、告白せえよ」と登場人物の後頭部をはたきたくなるような物語だった。現代ではかなり浮いた設定になるが、昭和三十年代初期ならば大丈夫じゃないか、と考えたのだ。そこで十八歳の幸子と宇宙人のバシャリが恋する物語を軸に、空飛ぶ円盤研究会や星野新一を絡ませることにした。

エササニ星のバシャール

この宇宙人のバシャリにもモデルがいる。それはバシャールという宇宙人だ。バシャールは エササニ星の集合意識らしい。ダリルアンカという人がチャネリングをして、そのエササニ星からバシャールのメッセージを伝えてくれているとのことだ。少し電波系の話なので若干ひいた人もいるかもしれないが……でもエササニ星って語呂がいいので何回も言いたくなる。

本田健さんや須藤元気さんや他の著名人の方々もバシャールと対談している。その内容が非常に面白かったので、バシャールを宇宙人のモデルにさせてもらった。

ラングシャックとはなんだ?

バシャリは宇宙船のエネルギーがなくなり地球に不時着した。エネルギーを回収するには、『ラングシャック』という名の容器が必要となる。バシャリはそのラングシャックを探し求めている。

このラングシャックとは果たして一体どんなものなのか。これまで8作品ほど書いてきたが、このラングシャックを何にするかが一番難問だった。これを思いつくのに一か月間ほどかかった覚えがある。でもその苦労のかいがあってか、これしかない、という答えになった。

果たしてラングシャックとはいったいなんだったのか。ぜひ宇宙にいちばん近い人を読んで、その答えをおたしかめください。

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ABOUTこの記事をかいた人

作家です。放送作家もやってました。第5回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞し、『アゲイン』でデビュー。『22年目の告白ー私が殺人犯ですー』は20万部を超えるベストセラーに。他に『宇宙にいちばん近い人』『シンマイ 』『廃校先生』『神様ドライブ』『くじら島のナミ』『貝社員 浅利軍平』などがある。お仕事(執筆、講演)の依頼は、お問い合わせ欄まで。