『おーい でてこーい』は星先生の代表作の1つでもある。
あらすじ
ある村で突然巨大な穴が出現した。底がないほど深い大穴だ。村人たちが困り果てていると、そこに利権屋がやってきて、その穴を廃棄場にしてしまった。人々は、その穴にありとあらゆるいらないものを捨てた。原子炉のカスや機密書類など、世の中のゴミすべてをその穴が引き受けた。それでも穴は埋まる気配すら見せなかった。人々はこの穴に頼りきった。この穴のおかげで、世界は清潔で清々しいものになった。そしてそんなある日……
解説
この話はよく公害問題を風刺したものだと言われるが、星先生は否定している。星作品には社会風刺のような作品も多々あるが、作家というのは社会風刺をしようと思って物語をかけるものではない。面白い話を考えて書いたら、結果的に社会風刺になった。順序が逆なのだ。
まず最初の着想として、大きな穴が頭に浮かばれたのだろうか? まず絵から物語が浮かぶ。そしてその絵が生まれる原因を逆算するように探っていく。ストーリーティングの基本だが、このお話はそういう感じで作られた気がする。
このお話は、最初と最後がリンクしている。「おーい でてこーい」というこの台詞が極めて重要な意味を持ってくる。
物語で出てくるある台詞が、後々別の意味を持って現れる。僕はこのパターンが好きで、自分の小説でも使っている。今気づいたが、思いっきり『おーいでてこい』からの影響ですね。さすが星チルドレンだ。
そして『おーい でてこーい』のさらなる特徴は、この話を読み終えると、読者は大いに想像力をかき立てられるという点だ。これは、これ以外の星新一作品の魅力でもある。
物語が終わった後、この世界はどうなるんだろう。星作品は衝撃的な一文で物語が終わることが多く、読者はその後をどうしても想像する。驚きの直後にぞっとするような恐怖におそわれる。この感情の連打が、星作品の魅力だ。
『おーい でてこーい』にもう一つ魅力があるとすれば、これが繰り返しの構造になっている点だろう。物語が円環するという構造は、タイムリープものなどでもよく使われる。
閉じられた世界をぐるぐる回る。この設定には妙な魅力がある。心理学的に色々説明されているのを読んだことがあるが、僕にはどうもピンとこない。答えはよくわからないが、物語の円環構造には魅力があることは事実だ。
この『おーい でてこーい』は、見事に物語が円環している。
これほど複数の物語の魅力を、これだけ短いお話に詰め込んでいる。さすが星新一と言わせる作品です。
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