昔、僕の友人に『アロエ佐藤』という男がいた。
爽やかなハーフ少年というわけではない。顔が将棋の駒のようでスポーツ刈りをしている。 将来、彼は柔道部の主将になるな。アロエ佐藤は、誰にもそう思わせるような風貌の少年だった。
アロエというのは植物のアロエだ。緑色でギザギザした葉っぱをしている。最近では見かけないが、昔はその辺りに生えていた。アロエ佐藤のアロエはここから名づけられた。
なぜこんな名前がついていたかと言うと、彼は誰かが怪我をすると、すぐにアロエをすりつぶして傷口に塗りたがるからだ。たしかにアロエは怪我にいい。それは僕も知っている。
アロエ佐藤はもともと義侠心にあふれた人間だった。誰かを助けてやりたい。そういう気持ちが強い子供だった。それは素晴らしいことだと思う。
ただその正義感と、アロエが怪我にいいという知識が核反応を起こし、彼は誰かれかまわず傷口にアロエを塗りたがる、暴走モンスターになってしまった。 正義感におかしなものをかけ合わせると、とんでもない事態になる。そんな一例をアロエ佐藤が見せてくれた。
そこで彼は、常時そこら辺に生えているアロエを千切り取り、ポケットに入れていた。子供とはよく怪我をするものだ。彼の周りでは必ず誰かが怪我をした。
するとアロエ佐藤は、
「ちょっと待って。アロエ塗るから」
とおもむろにポケットからアロエを取り出し、それをコンクリートに置いて石ですりつぶしはじめる。
それを見て、怪我をした子供がこう抵抗する。
「佐藤ええって、俺家帰っておかんに消毒液塗ってもらうから」
すると、アロエ佐藤は憤怒の表情で怒鳴る。
「アホか。傷はすぐ処置せなあかんねん。それにアロエが一番きくんや!」
オペ手前のブラックジャックのようなその迫力に、子供達は押し黙る。
僕は佐藤の手元を見た。汚いアロエと汚い石だ。そんなもの傷口に塗られたくない。
どう考えても、優秀な製薬会社の方々が日夜頭をしぼって考えてくれた消毒液の方が効くに決まっている。
だがアロエ佐藤は、もうアロエの虜だ。彼にとってアロエは万能薬であり、ファイナルファンタジーでいうエリクサーなのだ。
彼は勤め人になっても給与は現金ではなくアロエでもらうのだろう。それほどアロエに心酔している。
ありがた迷惑に極致があるとすれば、これは相当上位にランクインする。だから僕らの周りでは、
「アロエ佐藤の周りで怪我をするな」
と、まるで代々村で伝わる教えのように、ひそひそとささやかれていた。
そんなある日のことだ
続く
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