お笑い評論家のラリー遠田さんとしゃべっていて、将来売れていく芸人さんにはある特徴があるという話になった。それは、『誰しも売れてない頃から見据えている目標が高い』ということだ。この意見に僕も賛同した。
売れていない若手芸人に「今の目標って何?」と尋ねると、たいていこんな答えが返ってくる。
「いやあ、はよバイトやめたいですわ」
若手芸人というのは、なかなか本業である芸事だけで食べていくことは難しい。そこで生計を立てるために、しぶしぶバイトをしなければならない。
だから若手芸人の目標の一つが、『バイトをやめる』になるのだ。バイトをやめて、芸事だけで生計を立てる。まずはみんなこれを目指す。
だが不思議なことに、この答えをする若手芸人ほどなかなか売れない。そしていつの間にかやめている。
昔ジャルジャルというお笑いコンビと一緒に番組をやっていた。彼らがまだ関西を拠点にしていて、ちょうどブレイク寸前といった時期だ。
若手芸人を主体にした番組を立ち上げるということで、ジャルジャルとスマイルの二組を入れたいと会議で提案したところ、うまくその意見が通ったのだ。
そのコンビの一人である福徳と喋っていると、福徳がまだ実家に住んでいるという話になった。僕は少し驚いた。
「えっ、 もう一人暮らしできるやろ」
ジャルジャルはテレビ番組のレギュラーを持っている。バイトをしなくても、十分に生計を立てられるはずだ。
それに実家から通うのは何かと不便だ。だから関西の若手芸人は、売れてなくても劇場のある難波近辺で部屋を借りる。
すると福徳が何食わぬ顔で答えた。
「もうちょっとしたらすぐ東京行くんで、そんな少しの期間大阪で一人暮らしする必要ないですもん」
この頃のジャルジャルは、関西で少し売れてきたというぐらいだった。そんな段階で、東京進出がもう予定の中に入ってるような口調だった。こいつは他の若手芸人とちょっと違うな、と僕は思ったものだ。
さらに福徳曰く、まだバイトしないとダメな若手芸人は、可能ならば実家に住んだ方がいいというのだ。 若手芸人の最大の仕事は、とにかくネタを作ることだ。だからネタを作る時間を捻出することが何より重要となる
なのに実家を出て部屋を借りたら、その分家賃と生活費のためにバイトの時間を増やさなければならない。貴重なネタを作る時間が、バイトをする時間に奪われてしまう。それは本末転倒だというのだ。
この意見を聞いて、「なるほどなあ」と僕は膝を打った。
その後福徳の言葉通り、ジャルジャルはすぐに東京進出し、全国区の芸人さんとなった。
まださほど売れていない頃から、ジャルジャルは先を見据えていたのだ。しかもそれは夢という感じではない。まるでスケジュール帳に予定を書き込むような、あたかもその未来が決まっているかのような口調だった。
これから成功するだろうなという人には、誰しもこんな雰囲気があるのかもしれない。
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