『パクる』という言葉は悪い意味で使われることが多い。特に僕のような創作の仕事をしている人間にとってはタブーとなる。オリジナルという言葉が何よりも神聖視されている。
だが一方で、完全にオリジナルなものなどもうこの世にはないとも言われている。
例えば友達が目を爛々と輝かせ、
「なあ、俺ずっと10年以上これまでにない新しい話を考えてて、昨日ふと思いついたんや。聞いてくれるか?」 と身を乗り出してきたとする。
「何?」とあなたは尋ねる。
すると友達が、
「川から桃が流れてきて、それをおばあちゃんが拾うんや。そしてその桃を割ると、中から赤ん坊が出てくる。そしてその赤ん坊が大人となり、鬼退治するんや。
どうや斬新やろ」
と興奮した面持ちでしゃべってくる。
何かオリジナリティがあるもの考えたとしても、それは過去に誰かがすでに考えている。正直このケースの方が多い。
クリエイターの仕事は、過去にあったものを現代という包装紙で新しく包み、それを自分なりに綺麗にラッピングすることだ。
つまり、上手に盗む技術が必要とされる。
ビジネスの世界では、 その盗む技術がより重要視されている。孫正義さんは『タイムマシン経営』という言葉をよく口にする。アメリカで流行した Web のサービス やビジネスモデルを日本で展開し成功させるという手法だ。いわば『アメリカをばんばんパクりまっせ』と言っているのだ。
不人気に沈んでいたUSJを、ディズニーランドに匹敵するほどのテーマパークに復活させた、 マーケッターの森岡毅さんも著書で盗むことの重要性を書かれていた。
ゼロからイチを生み出すのはコストも時間もかかる。ならば自分たちがやりたいことをすでに成功させている人物や企業から学んだ方が、コストも時間も節約できる。実に合理的な考え方だ。
いや、俺はパクるなんて卑怯なことはしない。オリジナルで勝負をする。こういう考え方は、ビジネスの世界ではただの自己満足だ。
この盗む技術のプロとも言える男がいる。それは、五島慶太だ。
東急電鉄の創始者で、鉄道王と呼ばれた男だ。『強盗慶太』と呼ばれるほど強引なやり方でのし上がった。
この五島のビジネス手法はただ一つこれだけだ。
『小林一三の真似をする』
小林一三は阪急電鉄の創始者で、宝塚劇団を立ち上げた人物でもある。その独創性のあるアイデアは、ビジネスの天才といってもいい。
五島は、この小林一三を徹底的に真似たのだ。阪急電鉄の真似をして東急電鉄を作り、阪急不動産の真似をして東急不動産を作った。さらに阪急百貨店を真似して東急百貨店を建て、東宝を作れば、東映を作り、小林が第一ホテルを作れば、五島は東急ホテルを作った。
見事なぐらい、すべてが小林一三のパクリだ。さすが強盗と呼ばれるだけはある。 この時の小林一三の気持ちをちょっと知りたいぐらいだ。だが結果として、五島は見事な成功を遂げた。
僕がこの話を聞いてすごいなと思うのは、五島は自分に独創性がないと完璧に割り切っているところだ。
普通ここまで徹底的に真似なんてできない。いや俺もオリジナルなビジネスできるよ。そんな自尊心がゆらめいてしまいそうなものだ。けれど五島にそんな気持ちなど微塵もない。気持ちがいいぐらいのパクリようだ。
ただ世の中に生きる99%の人間は、小林のような天才ではない。だからこそそんな天才から盗む技術が必要となる。つまり五島がいい手本となるのだ。
いつかこの五島慶太をモデルにした歴史経済小説を書いてみたいなと思っている。
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