オーバーテクノロジーという言葉がある。 現代の技術では到底再現できない技術のことだ。 SFなどではよく使われている言葉でもある。
このオーバーテクノロジーを持つと人はどういう結果になるのか。僕は子供時代にその結果を知ったことがある。
僕が小学生の頃、ミニ四駆というものが大流行した。 モーターと電池で自走する車のおもちゃだ。全国のおもちゃ屋では、店の軒先などにミニ四駆専用のレーンが作られ、子供達が自慢のミニ四駆を持ち寄って競い合っていた。
僕の友達で、西野という男がいた。
彼はこのミニ四駆にドハマリした。お小遣いのすべてをミニ四駆に注ぎ込み、 最速のミニ四駆作りに勤しんでいた。その努力の甲斐もあって、僕の小学校では西野のミニ四駆が一番早かった。近辺の小学校でも、西野のミニ四駆は早いと噂されるほどの実力を誇っていた。
ところがそこにライバルがあらわれた。別の小学校の子供で、とんでもない速度のミニ四駆を持つ男が出現したのだ。おもちゃ屋では毎日曜日にミニ四駆のレースがあるのだが、彼が毎回一番になり、西野は二番になってしまった。
西野はそれを心底悔しがった。そしてさらにミニ四駆に熱を入れはじめた。
そんなある日のことだ。僕は大阪の塾に通っていたのだが、とあるおもちゃ屋にふらりと立ち寄った。日本橋のおもちゃ屋で、何か見たことがないハイテクなものが数多く売られていた。日本橋は電気街だったのだ。
そこにミニ四駆の部品が売っていた。それはとんでもない強力なモーターだった。解説の内容は忘れたが、何か特殊な磁石を使ったモーターだということだ。
ミニ四駆はモーターが強力であればあるほど速さが増す。 僕は奈良に住んでいたのだが、奈良のおもちゃ屋にはそんなモーターはなかった。さすが大阪だ、と僕は感心した。奈良人にとって、大阪はもっとも近くにある最先端の街だ。ドラゴンボールに例えれば、ブルマの住む西の都みたいなものだ。
そこで次の日、西野にその怪物モーターの話をした。その直後、西野の目の色が変わった。そして手を合わせてこう頼んだ。
「 浜ちゃん頼む。そのモーター買ってきてくれへんか。どうしてもあいつに勝ちたいんや」
そのモーターは反則技のようなものだ。これほど清々しくドーピングをすると宣言する奴も珍しい。
僕はその頼みを受け入れた。モーターは高額だったが、西野は気にもしなかった。お小遣いがすべてなくなっても、そのライバルに勝ちたい。そう目が語っていた。
早速そのモーターを取り付けたミニ四駆を道で走らせてみた。その効果はとてつもなかった。見えないほどの速度で快走したのだ。
西野は大喜びした。
「ありがとう。これやったら絶対勝てるわ」
奈良の子供が、浪速のバケモノモーターに敵うわけがない。ミニ四駆界のオーバーテクノロジーを西野は手に入れたのだ。
そして日曜日を迎え、ミニ四駆レースの本番となった。僕も結果が気になったので、このレースを見学しに行った。
西野の顔は自信で満ちあふれていた。ドーピング直後のカールルイスもこんな感じの顔をしたのかもしれない。
西野とそのライバルが、ミニ四駆をコースにセットした。スタートの合図とともに、ミニ四駆が走り出した。
一同からどよめきが起こった。
西野のミニ四駆が、ライバルのミニ四駆にあっという間に差をつけたのだ。さすが怪物モーターだ。タイヤから煙が出るほどの速度だった。
だがその直後だ。西野のミニ四駆がコースから飛び出した。あまりにも早すぎて、カーブを曲がりきれなかったのだ。
テスト走行は直線でやっていたので、カーブのことを算段していなかった。
そのままミニ四駆は暴走し、 車道まで飛び出してしまった。そして車のタイヤにひかれて粉々になってしまった。
「 うおおおおおお!!!!」
と西野が絶叫した。全財産を費やし、自分の命とも言えるミニ四駆が目の前でぶち壊れたのだ。
苦労して建てた30年ローンのマイホームのお披露目をしていたら、とつぜん隕石が落下して家が全壊したようなものだ。
西野が阿鼻叫喚の声をあげ、周りの子供がしんとなった。慰めの言葉など誰もかけられない。とつぜんの悲劇に、子供達は無力だった。
オーバーテクノロジーって怖いな……。
泣き崩れる西野を見ながら僕はふとそう思った。
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