大ヒットの法則は、『NO1になること』

少年ジャンプのストーリーティングの特徴の一つとして、主人公の目的を早めに提示するというのがある。

もちろん小説や映画でも、主人公が何をしたいのかを最初に提示するのは重要なことだ。 目的こそが、登場人物自身を語ることになるからだ。

ただ漫画と比べて、 さほど強めの提示がない。同じ物語形式の娯楽だが、ここが漫画とは異なる。

少年ジャンプは読者アンケートで打ち切りかどうかが決まる。だからこそ、第一話はとにかく重要となる。第一話で面白いと思ってもらわなければ、二話、三話と続けて読んでくれるわけがない。

漫才でいうと、第一話はつかみだ。つかみに失敗した漫才ほど、失敗する確率が増えてしまう。

魅力的な目的を読者に提示する。これができれば、ヒットの可能性がぐんと上がる。

ボクらと少年ジャンプの50年の番組で、鳥嶋編集長が面白いことを言っていた。

今や世界的なヒット作品であるドラゴンボールは、当初人気がなかった。今聞くとちょっと信じがたいが、10週までたいした人気がなかったらしく、このまま行けば打ち切りだったそうだ。

そこで作者の鳥山明先生と鳥嶋さんが議論して、主人公である孫悟空がどんな人間なのか、何をやりたいかが明確ではないことに気づいた。

そういえば第一話で悟空は、 ブルマと出会ってドラゴンボールを7つ集める旅に出ることになる。つまりこの漫画で最初に提示された目的は、『ドラゴンボールを7つ集める』ということだ。

だがこれは、読者を惹きつけるほど魅力的な目的ではなかった。だから人気が低迷したのだ。そこで二人は、悟空に新たな目的を与えることにした。

それが、『強くなる』だ。

このシンプルで力強い目的のおかげで、天下一武道会というものが生まれた。そして強敵と戦うたびに強くなっていく悟空は、僕たち子供の心をがっちりととらえた。そして空前絶後の大ヒット漫画となったのだ。

魅力的な目的こそが、ヒットの秘訣である。 このドラゴンボールの逸話がそれを証明している。

そして今のところもっとも魅力的な目的は、『NO1になる』というものだ。

ドラゴンボールの孫悟空の『宇宙一強くなる』。ONE PIECE のルフィーの『海賊王に俺はなる!』。ナルトの『火影になる』。キングダムの信の『中華一の大将軍になる』。

どれもこれも『NO1になる』と同義だ。漫画というジャンルの中でも圧倒的なベストセラーは、主人公が同一の目的を持っている。NO1を目指す物語こそ、大ヒットに欠かせない要素だと言える。

物語とは、マイナスからプラスに転ずるときに生じるものだ。そしてその障害と落差が大きければ大きいほど面白くなる。

ゴールがNO1だと、その二つの要素が自然と大きくなる。エベレストを目指すのと、近所の幼稚園児が遠足で向かう山を目指すのでは、どちらが大変なのかがすぐにわかる。

絶対に無理だ。できっこない。読者がそう思ってくれる目的を提示できれば、もうつかみは成功だ。目的のための障害と落差が大きいことを、読者が無意識のうちに感じてくれているからだ。そのために作家は、主人公を極めて悲惨な状況に置いたり、絶対に勝てっこない強敵を登場させたりする。それはマイナスの谷を深くする作業だ。

もちろんNO1という目的を与えれば、何がなんでも面白くなるというものではない。魅力的なNO1とは何か? それを他の手法で示さなければならない。

さらに、ただの栄達や自己表現のためにてっぺんを目指すのであっては、読者から嫌われてしまう。主人公がNO1を目指すための理由に、読者が共感しなければならない。

面白くて魅力的で共感できるNO1とはなんだろうか? 

ちょっと考えて、超絶ヒット作品を狙ってみます。

 

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作家です。放送作家もやってました。第5回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞し、『アゲイン』でデビュー。『22年目の告白ー私が殺人犯ですー』は20万部を超えるベストセラーに。他に『宇宙にいちばん近い人』『シンマイ 』『廃校先生』『神様ドライブ』『くじら島のナミ』『貝社員 浅利軍平』などがある。お仕事(執筆、講演)の依頼は、お問い合わせ欄まで。