小説はマンガに負けているのか?

とある小説家さんが Twitter で『小説はマンガに負けているとよく言われるが、ジャンルが違う。小説には小説の良さがあり、マンガには漫画の良さがある。比べること自体がおかしい』とこんな感じのことを呟かれていた。

僕も小説家という仕事をしているので、その通りだと言いたいところだけれど、正直完全に負けていると考えている。

もちろんジャンルが違うのは重々承知だが、どちらも広い枠組みであれば娯楽だ。 その娯楽という枠組みの中で勝ち負けを決めるとするならば、 それは市場規模しかない。

現在の小説ではミリオンセラーなどほぼ出ないが、漫画ではミリオンセラーなど当たり前だ。 漫画のワンピースにいたっては、4億5000万部らしい。小説でこの部数を売り上げることはほぼ不可能だろう。

小説はかつては娯楽の王様だった。

夏目漱石や太宰治など文豪と呼ばれる人が今も名を知られているのは、明治、大正、昭和前半までは小説が娯楽の頂点にいたからだ。

おそらく漱石が現代によみがえり、その才能を思う存分ふるった小説を発表したとしても、 昔のような名声を得られることはないだろう。

なぜなら小説は、映画、マンガという新しい娯楽にその立場を譲り渡してしまったからだ。

マンガもビデオゲームという娯楽が誕生したおかげで、王様ではなくなっている。ゲームもいずれかの未来では、また違う娯楽に王者の地位を奪われるに違いない。

そんなものに勝ち負けはないと言われるかもしれないが、勝ち負けがあると思っておいた方がいいと僕は考えている。

小説はマンガやアニメ、ゲームに負けている。じゃあ小説がマンガやゲームに勝てる部分はなんだろう? 小説でしかできないことはなんだろう? 

少年ジャンプの編集長である鳥嶋さんが面白いこと言っていたのだが、マンガでは広大な宇宙を舞台にした SF は苦手分野だ。なぜなら描こうと思えば、宇宙空間を描くために紙面が真っ黒になるからだ。それでは人気が得られない。

だが小説、ライトノベルはその欠点がない。だから宇宙を舞台にしたアニメは、ライトノベルを原作にしたものが多い。

なるほどと膝を打った。これは小説の利点かもしれない。探せばこういう点がまだまだあるだろう。 そういうのを探しながら小説を書くのも一手だ。

もしくは他分野と一緒に手を組む手法を考える。小説をコミカライズやゲーム化するにはどうすればいいだろうか?  どういうものが親和性は高いのだろうか? ジャンルごとの表現方法をあらかじめ考えながら小説を書けないだろうか?

そういう視点で書いても面白いかもしれない。

ということで僕の結論はこうだ。「小説はマンガに負けている。アニメにも負けている。ゲームにはもっと負けている。じゃあどうしたらいいのだろう?」

そんなことを考えるのが結構楽しい。

 

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作家です。放送作家もやってました。第5回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞し、『アゲイン』でデビュー。『22年目の告白ー私が殺人犯ですー』は20万部を超えるベストセラーに。他に『宇宙にいちばん近い人』『シンマイ 』『廃校先生』『神様ドライブ』『くじら島のナミ』『貝社員 浅利軍平』などがある。お仕事(執筆、講演)の依頼は、お問い合わせ欄まで。