こんな記事を読んだ。
NHKさん大丈夫ですか?――『筋肉体操』、『香川照之の昆虫すごいぜ!』…公共放送NHK、奇抜な番組が生まれる背景
筋肉体操とは、NHKでおなじみのみんなの体操の筋肉版だ。武田真治さんがこの番組で筋肉キャラを強めている。
この筋肉体操を思いついた経緯が記事に載っていた。ディレクターの方が書店を眺めていて、「ずいぶん筋肉本が多いな」と気づいたらしい。
たしかに最近、「プリズナートレーニンング」や「筋トレ社長」などの筋肉本がヒットしている。
それを見て、みんなの体操を筋トレでやるんじゃないと面白いんじゃないかと思いついたそうだ。
アイデアとは異質なものと異質なものの組み合わせである。アイザックアシモフの言葉だが、まさにこれがそうだ。
『筋トレ✖️みんなの体操』
理想の掛け算になっている。さらにもう一個ヒットの要素があるとすれば、みんなの体操という伝統あるものを掛け算したことかもしれない。
昔懐かしいものや、面白いとすでにわかっていることに、新しい包み紙を包んであげて違う商品にする。
『君の名は』『シンゴジラ』、最近では『ボヘミアンラプソディー』などのヒットも、すでに面白いと証明されているものを新しい包装紙で包みなおしたものだ。
伝統あるもの、なじみのあるものにまったく違うキーワードを掛け算するというのが、ヒットの法則なのかもしれない。
ただいくら面白い企画を思いついても、実現しなければ意味がない。
この斬新な企画が通った、通せたという点が何より重要だ。これはNHKだからこそ通ったんじゃないかと思う。
僕は放送作家のときNHKで仕事をしていたのだが、他のテレビ局と違うなと思ったのが、ディレクターの裁量が大きいことだ。
ディレクターが個人で企画を立て、個人でやることが多い。プロデューサーは基本口を出さず、ディレクターに一任するという感じだ。
他のテレビ局の会議ならば、プロデューサーや放送作家が意見を言い、合意という形で企画になる。
もちろんこれにもよさはあるが、悪く傾けば凡庸でありきたりのない企画となる危険性もある。
番組の会議でよくある光景なのだが、奇抜な企画を出しても、「見えない」と否定される。見えないとは業界用語で、面白くなる道程がわからないという意味だ。
だが奇抜ものや斬新なものは、基本誰にもわからない。筋肉体操も企画段階ではまったく見えないだろう。
「見えない人」が上司にたくさんいれば、斬新な企画など生まれてくるわけがない。特に年齢が経てばたつほど、過去の成功体験と常識にあてはまらなければ、すべて見えないものにしてしまう。テレビが少し元気がない一因が、スタッフの高齢化だろう。
だがNHKは筋肉体操の企画が出たとき、見えないと言わずにやらせてみたのだ。そしてプロデューサーや編成は演出に口を入れない。すべてを任せる。
エッジのきいた企画はネットでは広まりやすい。筋肉体操もネットで火がついた。これからはますます会議の合意でよりも、一個人の突飛なアイデアを実現させることが重要になる。
若い人にテレビを見てもらいたいと思うのならば、『見えない』は禁句にする必要がある。そして見えないを言わないNHKは、これからも変な番組を作ってくれる可能性が高い。
そして僕は筋肉小説の企画を作ろう。
家族から馬鹿にされまくっている夫が、マッチョになってみんなを見返す。これだな。二年後ドラマになってるかもしれないですよ。
コメントを残す