子供が子供の心をえぐる瞬間

子供というのは無邪気だが、その分他人の気持ちなどおかまいなしでなんでも発言する。

だから子供と話していると、時々大人は傷ついてしまう。

僕もこの前誕生日を迎えて40歳になったのだが、五歳の次女に、

「パパ、40歳になったん」

「そう」

「そうなんや。でも昔の人って40歳で死ぬんやろ。パパ昔やったら死んでるな

と言われた。

そうか俺もう死んでるのか……とがっつり傷ついた。

大人は相手の気持ちを汲んで発言するが、子供はそんなこと一切ない。だから大人は傷つくのだ。

だが子供が子供が相手にグサリとくる一言を口にする現場にこの前立ち合った。

八歳の長女と話していると、ユーチューバーの話題になった。うちの子供も現代っ子なので、よくYouTube見ている。

長女がふくれっ面でこう言ってきた。

「ねえ、ひなあチャンネル早く次やりたいんだけど」

ひなあチャンネルとは、長女がいとこ達とやっているゲーム実況のYouTubeだ。自分たちもYouTubeをやりたいとあまりにしつこいので、試しに一度だけやらした。

うちの長女は承認欲求が強いせいか、「視聴者数どれぐらい?」「今日は何人見てくれた?」などことある度に尋ねてくる。

更新するのが面倒なので適当に逃げ回っているのだが、長女は時々思い出したようにせがんでくるのだ。

そこに五歳の次女が割って入ってきた。

「なあ、パパ。日本一人気のあるユーチューバー誰か知ってる?」

これで長女の攻撃がかわせると、すぐに答えた。

ヒカキンじゃないの」

「そうか。やっぱりヒカキンか。私はすしらーめんりくも好き」

「すしらーめんりく面白いからな」

すしらーめんりくは僕も好きなユーチューバーだ。

すると次女が不敵な笑みを浮かべた。

「でも私、日本一人気ないユーチューバーも知ってんで」

「誰?」

次女が声を大にして答えた。

「ひなあチャンネル」

その瞬間、思わず長女の方を見た。

いつもならば「そんなことないわ」と長女が激怒するところだが、今はあきらかに衝撃を受けた顔をしている。子供が傷ついた瞬間というのを初めて目撃した。特大鉄球が心に直撃したのだ。

「……そんなこと言ったらダメよ」

次女をそう諌めたが、次女はきょとんとしていた。

子供というのは恐ろしいものだと実感した。

 

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作家です。放送作家もやってました。第5回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞し、『アゲイン』でデビュー。『22年目の告白ー私が殺人犯ですー』は20万部を超えるベストセラーに。他に『宇宙にいちばん近い人』『シンマイ 』『廃校先生』『神様ドライブ』『くじら島のナミ』『貝社員 浅利軍平』などがある。お仕事(執筆、講演)の依頼は、お問い合わせ欄まで。