水曜日のダウンタウンという番組で、『新元号を当てるまで脱出できない生活』という企画をやっていた。(それにしてもこのブログの話題はテレビが多い。根っからのテレビっ子だ)
『令和』が発表される前に若手コンビをとある一室に閉じ込め、新元号が何かを当てさせる。令和という答えが出るまで部屋から出られないという企画だ。
これがすごく面白かった。まず脱出できない系の企画というのは基本ハズレがない。さらに新元号を当てるまでというこの時期を逃せばできないという旬感もすごい。
『テレビとは時代を切り取る装置』だと言われているが、まさにこの企画ほどその言葉通りのものはない。
この企画に採用されたコンビ芸人が、『ななまがり』というのもよかった。ななまがりのボケ担当である森下は、一度バイク川崎バイクに紹介されてご飯に行ったことがあるので親近感があった。
バイク川崎バイクの名言に『テレビは知ってるやつが出てるのが一番おもろい』というのがあるが、まさにその通りだ。森下が出たことで、この番組の面白さが倍増した。
この手の企画ではどうヒントを与えるかの手順が重要になる。このヒントを与えるシステムが、今回の企画では絶妙だった。スタッフの方々はかなりシュミレーションしたのだろう。その努力のほどが窺えて思わず感心してしまった。
それにしてもこの脱出できない企画はなぜ面白いのだろうか?
まず今回で言えば、視聴者がすでに新元号は令和であると知っているが、ななまがりの二人は知らないという構図からスタートしている。
つまり視聴者は神視点で、ななまがりは地上の視点というわけだ。
そしてななまがりが右往左往しながら『令和』というゴールに辿り着く様を、視聴者は神の視点で楽しむことができる。
ゲームの基本構造としてはスイカ割りに似ている。
スイカ割りは、目隠ししてぐるぐる回って方向感覚が狂ったパートナーに指示を与え、きちんと棒でスイカを割れるように導いてやるというゲームだ。
こちらはスイカの位置を知っているが、相手は知らない。
この優位性を作った状態でスタートすることが、人間の快感をくすぐるポイントになるのだ。
そして無知なるものを教え導く、もしくは彼らがどう行動するかを見守る。これも快感のポイントになる。
ストーリーティングでいえば、歴史物がこれにあてはまる。
歴史物というのは結果がもうわかっている。例えば織田信長を主人公にした物語では、織田信長は最後に本能寺の変で殺されることを読者は知っている。
答えを知った上で物語を楽しむのだ。これはまさに今回の新元号企画と同じ構図だ。視聴者が読者で、ななまがりが織田信長なのだ。(信長様に怒られそうだが……)
この読者(視聴者)は知っているが、登場人物(ななまがり)は知らないという構図をうまく利用して感動ものを作るという方法もある。
細野不二彦先生の『Gu-Gu-ガンモ』の最終回がまさにそうだ。
ガンモは可愛いニワトリのようなキャラクターだ。このガンモと、主人公である少年・半平太との交流を描いたギャグ漫画だ。ドラえもんで言えば、半平太がのびたでガンモがドラえもんだ。いわゆる居候漫画という形式になる。
最終回ではガンモが半平太の元を去る。そのときガンモは半平太を含めたガンモを知る全員の人間の記憶から、ガンモの記憶を決して去ってしまう。
その後、半平太の日常が淡々と描かれる。半平太はガンモに記憶を消されているので、ガンモがいなくなったことにすら気づかない。だが、神である読者だけはそれを知っている。するとただの変哲もない半平太の日常のシーンが、とても寂しいものに感じられる。
最後に半平太がコーヒーを呑むシーンになる。実はガンモの好物はコーヒーで、ガンモはコーヒーを呑むとなぜか酔っぱらってしまう。それがこれまではコミカルに描かれ、ギャグとなっていた。
もちろんガンモがコーヒー好きであることは読者は知っている。
半平太がコーヒーを一口飲むと、なぜか涙があふれてとまらない。半平太の姉がそれを見て怪訝そうに尋ねる。
「半平太? ちょっとあんた何泣いてんの。気持ち悪い」
「あれっ、どうなってんのかな……なんでもないのにコーヒーの匂いを嗅いだら胸が苦しくなって……へんだね、オレ?」
半平太は涙の理由がわからず困惑するが、涙は次から次へとこぼれ落ちる。
このラストシーンで、読者は激しく感動する。
なぜならその涙の理由を、読者だけが知っているからだ。半平太の知らない胸の奥底にある感情に、読者は共鳴して泣いてしまうのだ。
まさに、今回の水曜日のダウンタウンの新元号当てと構図は同じだ。でもガンモではこの構図を使って、見事感動ものにすることができている。
バラエティーも感動ものも構造を因数分解すれば、応用可能となる。だから編集者の方、お笑い番組見てさぼってるんじゃないですよ。小説の勉強してるんです。いや、マジで。
それにしてもななまがりよかった。これでブレイクしてほしいな。
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