世代による考え方の違い

オリエンタルラジオの中田さんのこんなインタビュー記事を読んだ。

中田敦彦はなぜテレビの仕事を減らしたのか

要約すると、テレビはかつてメディアの王様だったが、今はyoutubeやNetflixなどの新しい動画配信サービスが強烈な対抗馬として台頭している。

そこでテレビは、全盛期にメインの視聴者だった50代以上向けを狙ったコンテンツに集中している。坂上忍さんや長嶋一茂さんのリバイバルもその現象からくるものだ。

この状況だと、現在36歳の中田さんは50歳近くになってからようやくテレビの一等地に立つ戦いに参戦できる。だがそれでは遅い。中田敦彦というコンテンツの他の受け皿を探さなければならない。

有吉弘之さん、おぎやはぎさん、バナナマンさんといったボキャブラ世代の後期ぐらいまでがテレビの時代にぎりぎり間に合った世代。

40歳手前の中田さんを含めたキングコングの西野さんやピースの又吉さんが他ジャンルに進出しているのは、この閉塞感を打破するためのものだ。

まあこんな感じの内容だった。

ほぼ同世代なので、中田さんの気持ちは僕もよくわかる。僕は芸人ではなく放送作家だったが、放送作家も現在はこんな状況だ。

テレビ番組の最後に流れる放送作家のテロップを見ても、ここ20年以上ほぼ変わっていない。一線でいる放送作家はずっと一線のままだ。

20年ほど前だが、放送作家の間でよく言われていたのが、『放送作家35歳定年説』だ。

放送作家のようなクリエィティブな仕事は、頭がよく動き面白いアイデアが次々と出せる35歳までが限界だ。そんな意味だった。

そんな話題が上がった時だ。僕より20歳ほど年齢が上の先輩が、

「そんなわけがない。50代、60代でも放送作家は現役でバリバリやれる」

と鼻で笑った。

どうしてですかと尋ねると、

「これから日本は高齢化社会になるから、視聴者も高齢になる。そうするとメインの視聴者層は50代、60代になる。そんな人間が20代、30代の人間の作った尖ったものを見たがるわけないやろ。同世代の50代、60代の制作者が作った方が絶対いい。だから60超えても俺は全然活躍できる。35歳が限界なんかありえない」

なるほど、そういうものかもしれないな、と僕は膝を打った。

その時はyoutubeなどの新規メディアはなかったが、現状を見るとその人の予想はどんぴしゃで当たっている。

当時の僕はその説に深く納得したのだが、そこでこんな疑問も抱いた。

「じゃあ今20代の自分は、いつ自分で番組の企画を立てたり、メインでできるのだろうか……?」

上の世代がいつまでも活躍するのならば、下の世代である僕たちが中心になることなどあるわけがない。

これは実力うんぬんの前に構造上の問題だ。

陣地合戦で例えれば、先に敵に陣地を取られると、それを奪い返すには倍以上の兵力が必要となる。テレビという陣地は、すでに上の世代に根こそぎ取られている。だから下の世代がその壁を破るには、倍以上の能力が求められるのだ。

こういう新陳代謝が起こらない構造だと、なかなか下の世代が活躍するのは難しい。

まさにキングコング以下の世代の芸人とまったく同じ状況だ。

僕は元々小説家になりたかったということもあって放送作家の方に見切りをつけたのだが、これは中田さんのように違う環境を求めたということだ。

良い言い方をすれば戦略的撤退で、悪い言い方をすれば尻尾を巻いて逃げたことになる。

そして中田さんよりさらに下の世代の芸人さんはまた別の考え方を持っている。彼らはテレビよりもネタや賞レースの方に重きを置いている気がする。

以前はネタはテレビに出るためのきっかけでしかないという芸人さんが多かった気がするが、今はテレビよりもネタの方が大事という芸人さんが増えている。

おそらくこれはテレビでゴールデン番組のMCをすることが、芸人さんの最大の目標ではなくなったからだ。

かといってユーチューバーに転身するのも何か違う感じがする。ユーチューバーよりも自分たちの面白さが劣っているとは到底思えないからだ。

何か明確な、確固たる目標とゴールが欲しい。それがネタであり、賞レースなのだ。

ゆにばーすというコンビの川瀬名人は、「Mー1チャンピオンになったら芸人をやめる」と豪語している。これは極端な意見だろうが、この世代がネタを重視している気持ちが表に出ている。

世代による考え方の違いというのは本当にあるなあ、とこのインタビュー記事を読んで考えさせられた。

 

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ABOUTこの記事をかいた人

作家です。放送作家もやってました。第5回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞し、『アゲイン』でデビュー。『22年目の告白ー私が殺人犯ですー』は20万部を超えるベストセラーに。他に『宇宙にいちばん近い人』『シンマイ 』『廃校先生』『神様ドライブ』『くじら島のナミ』『貝社員 浅利軍平』などがある。お仕事(執筆、講演)の依頼は、お問い合わせ欄まで。