ボクらと少年ジャンプの50年 2

『ボクらと少年ジャンプの50年』というドキュメンタリーを見て、少年ジャンプが徹底的なアンケート主義だというのはよくわかった。

ボクらと少年ジャンプの50年 1

さらにもう一つ非常に興味深かったことがあった。それはジャンプの編集長である鳥嶋さんが語っていたことだ。

鳥嶋さんといえば、伝説の編集者だ。無名の鳥山明先生を発掘し、その才能を磨き上げた。もし鳥嶋さんの目利きと育て方が間違っていれば、ドクタースランプもドラゴンボールもこの世にはなかった。集英社の利益も、ごっそり減っていたに違いない。鳥嶋さんは、ドクタースランプのマシリト博士のモデルとなったことでも知られている。

少年ジャンプは創刊から50年の間、すべての時期においてトップを走っていたわけではない。低迷したのは、ドラゴンボール、スラムダンクなどの人気漫画が終わったときだ。徐々に部数が落ちていき、ライバルであるマガジンに抜かれてしまった。

その時の編集長が鳥嶋さんだった。 どうすればまたジャンプが一位の座に返り咲けるのか。

そこで鳥嶋さんが着目したのが、『 友情、努力、勝利』という言葉だった。

これはジャンプの初代編集長が考案した言葉で、ジャンプの漫画はこの三つのうちのどれか、もしくは複数入れることが編集方針だった。

人気回復には原点回帰しかない。その頃はラブコメなど、これまでのジャンプにはない漫画が人気を博していたが、鳥嶋さんはあえて『友情、努力、勝利』を強く認識することにした。

そこで生まれたのが、ワンピースやナルト、 ハンター&ハンターなどの人気漫画だ。 この原点回帰のおかげで、ジャンプは王者へと復活した。

『友情、努力、勝利』のこの三大要素は、昭和という時代限定のものではなかった。物語の骨幹をなすものだったのだ。

そこでふと気になった。ジャンプの初代編集長がこの三大要素を編集方針を取り入れたと言っていたが、なぜこの三大要素に気づいたのだろうか? ジャンプの創刊当時からある編集方針なので、漫画を作り続けるうちに気づいたというわけでもなさそうだ。

小説や映画等のストーリーティング技術から流用したのだろうか? だがストーリーティング技術というのは、神話学者のジョセフキャンベルの研究から一般的なものになった。 このキャンベルの理論を取り入れて作られたのが、スターウォーズだ。スターウォーズの公開は、ジャンプ創刊当時よりももっと後のことだ。それにキャンベルの理論に、『友情、努力、勝利』という言葉はない。

この三大要素がどこから生まれたのか? 気になって検索してみてびっくりした。検索結果はこうだった。

『友情、努力、勝利』の言葉は、少年ジャンプの前身である『少年ブック』から受け継がれた。元は小学校4年生・5年生を対象にしたアンケート、

『一番心あたたまる言葉』『一番大切に思う言葉』『一番嬉しい言葉』

によって決められたものである。

そう書かれていた。

マジか……今では物語の不変の要素といっても過言ではない、 『友情、努力、勝利』という言葉は、プロの作家や編集者、映画監督、神話学者が生み出したものではない。子供が考えたものだったのだ。

少年ジャンプという雑誌は、漫画のランキングを読者にゆだねるだけでなく、編集方針まで読者に決めてもらっていたのだ。

徹底した顧客主義。これは少年ジャンプの人気の秘密なのだろう。この精神がある限り、これからも少年ジャンプは面白い漫画を続々と生み出してくれるに違いない。

 

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作家です。放送作家もやってました。第5回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞し、『アゲイン』でデビュー。『22年目の告白ー私が殺人犯ですー』は20万部を超えるベストセラーに。他に『宇宙にいちばん近い人』『シンマイ 』『廃校先生』『神様ドライブ』『くじら島のナミ』『貝社員 浅利軍平』などがある。お仕事(執筆、講演)の依頼は、お問い合わせ欄まで。