ひょっとしてバカにされるって良いことじゃないだろうか

バカにされるというのは誰しも極力避けたい。それが普通の人の考えだと思う。僕もできるならばバカにされたくない。

けれど最近、バカにされたほうがいいんじゃないだろうかと思ってきた。

テレビが出始め、民間の放送局が続々と設立されてきた頃の話だ。それに伴い、テレビ局で働く人たちが続々と増えてきた。彼らは放送人と呼ばれていた。

出版文化人の人からは、テレビ関係の人間たちは基礎的教養の足りない連中だと思われていたらしい。要はバカにされていたのだ。

「テレビなんて馬鹿のやるもんだ」と出版関係の人たちは思っていたのかもしれない。いわゆる『けっ、あんなもん』扱いされていたのだ。

ところがその後テレビはどんどん盛況になり、影響力という意味では、出版文化をはるかに上回る結果となった。

そして半世紀が経ち、今度はネットが勃興し、新たな映像メディアとしてYouTubeというものが出てきた。

僕は放送作家なので、いわゆるテレビの世界にいた。そしてそのテレビ関係の人がYouTubeを見て、「あんなもん。全然おもろくない。成立していない」と馬鹿にしていた。成立していないとは、テレビ局の人たちがよく使う言葉だ。要は映像的に形になっていないという意味だ。

それはテレビで活躍する芸人さんたちも同じだった。「おまえYou Tuber か」と小馬鹿にするツッコミを頻繁に耳にした記憶がある。

この状況を見て、以前読んだテレビ勃興期の出版関係者の反応の話を思い出した。

テレビとYouTubeの関係は、昔の出版とテレビの関係にそっくりだ。まさに歴史は繰り返すというやつだ。

これは将来テレビはピンチになるだろうな、とその時僕はふと思った。 歴史を知れば、未来がある程度予想できるとよく言うが、それはこのメディアの未来にも当てはまっている。

そして案の定、今YouTubeの勢いはとてつもない。うちの子供などは、テレビで出てくる有名なタレントはほとんど知らないが、ヒカキンさんはよく知っている。うちの子供だけではなく、周りの子供がみんなそうだ。

そういえば以前よく聞いた「おまえYou Tuber か」というツッコミを誰も言わなくなってしまった。

あと十年経てば、テレビと YouTube の力関係はどうなるのかは容易く予想できる。

こうやって考えてみると、上の世代の旧メデイアから「お前馬鹿じゃないのか」「あんなもん全然ダメだ」と揶揄されるものというのは、逆に成功する要素が多いということになる。

バカにするという行為の中には、自分たちの地位がもしかすると脅かされるかもしれないという恐怖も混じっている。

そういうわけで、上の世代から馬鹿にされるというのは褒め言葉と同じじゃないだろうか。お前のやってることは見込みあるぞ、と言われているようなものだから。

でも逆を返せば、若い人たちがやっていることを小馬鹿にすることには十分注意しなければならないということでもある。

ということで、何か面白そうなことやってる人いたら、僕は肩抜けるぐらいしゃかりきに応援することにします。

 

いつも読んでいただいてありがとうございます。

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作家です。放送作家もやってました。第5回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞し、『アゲイン』でデビュー。『22年目の告白ー私が殺人犯ですー』は20万部を超えるベストセラーに。他に『宇宙にいちばん近い人』『シンマイ 』『廃校先生』『神様ドライブ』『くじら島のナミ』『貝社員 浅利軍平』などがある。お仕事(執筆、講演)の依頼は、お問い合わせ欄まで。