ロシアW杯と岡ちゃんの言語力

ブログ再開ということで、ずっと見ているロシアワールドカップについて書きたい。

期待されていなかった日本代表が躍進したことや、強豪国と呼ばれている国が続々と敗退するなど、 波乱含みで戦前の予想とは違う大会となっている。これほど見ていて面白いワールドカップは記憶にない。

そして今回のワールドカップで再認識したことがある。

それは岡田武史監督の圧倒的な説得力だ。

岡田監督の解説が素晴らしく良かった。

説得力とは何か? まずは圧倒的な実績だ。たとえ同じ発言をしたとしても、実績がある人間と実績がない人間のどちらに説得力があるか? 言うまでもない。実績がある方に決まっている。日本サッカー界において、岡田監督は圧倒的な実績を誇っている。だからこそ、言葉一つ一つに驚異的な深みがある。

さらにもう一つ、岡田監督の言語力だ。 難しいことを難しく伝えるのは簡単だが、難しいことをやさしく伝えることはなかなかできない。 池上彰さんがこれほど重宝されているのは、この能力がずば抜けて優れているからだ。さらに池上さんに追随するような人があらわれないのは、 この能力が希少なことも意味している。

僕が放送作家をやっている時、学者さんに出てもらう番組をやっていたのだが、学者さんの言葉というのはとにかく難しい。学者さんから話を聞いて、「つまりこういうことですよね」と僕が言うと、「そういうことじゃないんだよなあ」と学者さんが首をひねることが多かった。

僕の理解力が悪かったのもあると思うが、わかりやすさを求めると正確さが失われる。学者というのは、正確性が失われることを極端に嫌がる。だからこそ、難しいことを難しく伝えようとする。彼らの言葉が一般人になかなか理解できないのは、この性質から起こる現象でもある。

だが岡田監督の言葉は、わかりやすくありながらもその正確性を失っていないように聞こえる。わかりにくさという枝葉をそぎ落としつつも、その芯の部分はきっちりと伝えてくれている。これは稀有な才能だ。

実績と言語力。この二つを兼ね備えている人間というのは、日本で数人もいないんじゃないだろうか。

成功した個人、もしくは組織の中にこれほど言語能力が高い人がいる。それほど幸運なことはない。なぜならば、その成功の秘密を我々が知ることができるからだ。

日本サッカー界においての最大の幸運とは、岡田武史という貴重な才能がいたことかもしれない。

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作家です。放送作家もやってました。第5回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞し、『アゲイン』でデビュー。『22年目の告白ー私が殺人犯ですー』は20万部を超えるベストセラーに。他に『宇宙にいちばん近い人』『シンマイ 』『廃校先生』『神様ドライブ』『くじら島のナミ』『貝社員 浅利軍平』などがある。お仕事(執筆、講演)の依頼は、お問い合わせ欄まで。