AUの三太郎シリーズはなぜ人気があるのか?

今放映中のテレビCMで大人気なのが、AUの三太郎のCMだ。

桃太郎、浦島太郎、金太郎、誰でも知っている昔話の人気者を集めて、ストーリーティング形式にしたCMだ。

鬼役の菅田将暉さんが言っていたのだが、この鬼ちゃん役が一番視聴者の印象にあるらしい。あれほど映画やドラマで引っ張りだこの人気俳優の一番のあたり役が、この鬼ちゃんなのだ。三太郎の人気ぶりがよくわかるエピソードだ。

でもなぜ三太郎は人気があるんだろうか?

CM というものは、基本嫌われるものだ。宣伝や広告を歓迎してくれる人間などまれだろう。変なものを買わされたくはない。だまされたくはない。そんな心理が働くからだ。

さらに商品の供給過多と、ネットの普及によって、CMは氾濫している。一日を過ごしていて、一度も何かの宣伝を見なかった。そんなことはないと断言できるほど、現代社会には宣伝と広告が氾濫している。

だから人々は、少しでも宣伝の匂いがあるものを嫌悪する。 じゃあこんな状態で、どんなCMが受け入れられるのか? 

それは、CM要素がないCMだ。

最強の CM はクチコミであるとよく言われる。知人や友人から紹介されるものに、人は信頼を置いている。そこには、何も打算的な考えがないからだ。好意で勧めてくれているからこそ、「それだったら買おうかな」と聞き手は思ってくれる。

一時期、ステルスマーケティングという、宣伝と見えないように宣伝を行うという手法が問題になったことがある。これは宣伝が嫌われるからこそ考え出された手法だ。ただそこには消費者をだますという要素があったので、あれほど大問題になったのだ。

クチコミという妖精が集う楽園に、妖精を装った悪魔が忍び込んだという感じだろうか。

つまりCMは、宣伝要素をなくしつつ、これは宣伝だと明言する必要もある。つまり悪魔だとみんなに打ち明けつつ、その声に耳をかたむけてもらわなければならない。これはなかなかの難問じゃないだろうか。

テレビ CM というものは、もう宣伝だと明言している。だからネットのステマのように、誰かをだましているというわけではない。

三太郎は、まずこの段階をクリアしている。続けて、CM要素をどう消すか、だ

この三太郎の特徴としては、不思議なほど商品やサービスの告知をしていない。一見見ただけでは、それは CM かなのかどうかわからない。

AUの宣伝部長は、「商品やサービス以上に、まずAU自体を好きになってもらえるようにして欲しい」とCM クリエイターに頼んだそうだ。

これには宣伝の匂いを少なくするという目的もあるんじゃないだろうか。

そして CM を物語形式にすることで、よりCMの匂いは消える。だからこそ三太郎のCMを見ていて、CMを見させられたという気持ちはほとんどない。

さらに物語形式にして一度お客さんの心を掴んでしまうと、飽きられるまでの寿命が長くなっていく。小説や漫画などでも一度人気を得てしまえば、連載期間が長くなるしシリーズものになったりする。これが物語形式の利点のひとつでもある。三太郎はこの利点を最大限に利用している。

さらに、 日本人になじみのある昔話の主人公を使ったというのも大きい。

今娯楽という分野では、作品があふれすぎている。 これだけ選択肢が増えてしまえば、何を選んでいいのかわからなくなる。

その上、現代人は損をしたくないという気持ちがどんどん強くなっている。コスパがいいという言葉は、 今の人間の気持ちをよく示している。

だから映画などでも失敗作をつかみたくはない。失敗作をつかむということは、お金と時間を損しているからだ。これはとことんコスパの悪い行為と言える。

だから『ヒットの秘訣は、ヒットすること』、というよくわからないことが言われる。 もう売れている作品ならば、失敗作である確率が極端に減るからだ。

『今売れてます』が最大のキャッチコピーと言われるわけだ。

そしてもうひとつが、すでにヒットしたもの、なじみのあるものをリメイクするという手法だ。二年前にヒットした『君の名は。』も『シンゴジラ』も、すでにあるものだ。

君の名は、昭和の時代にヒットしたドラマで、会えそうで会えないという恋愛ものの原型となっている。それに新海誠監督の才能がかけ算されたから、あれほどヒットしたのだ。

シンゴジラも、ゴジラというすでになじみのあるものを庵野監督が演出したからこそ大ヒットした。

『君の名』も『ゴジラ』もすでになじみがあり、面白いことがわかっている。つまり他の作品よりも最初の時点で、ハズレをひく確率が減っている。その分、他の作品よりもアドバンテージがあるのだ。

最近人気マンガが続々と実写化されているが、それもこの傾向からくるものだ。すでに人気のあるマンガならば、ある程度の面白さは担保されている。お客さんが来てくれるとわかっているので、制作側も企画が立てやすくなる。

同じく、三太郎もこの流れに沿っている気がする。昔話の主人公という我々日本人が幼いときから知っているものを、現代風にアレンジしたからこそ、これだけ人気を得ているのだ。

さらにそれが、テレビという最大最強の媒体で流すことができている。これは強い。

つまりすでにヒットした、もしくはなじみのあるもので、物語形式にしたCMほどすごいものはない、と言えるかもしれない。

三太郎の人気はまだまだ消えることはないんでしょうね。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

ABOUTこの記事をかいた人

作家です。放送作家もやってました。第5回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞し、『アゲイン』でデビュー。『22年目の告白ー私が殺人犯ですー』は20万部を超えるベストセラーに。他に『宇宙にいちばん近い人』『シンマイ 』『廃校先生』『神様ドライブ』『くじら島のナミ』『貝社員 浅利軍平』などがある。お仕事(執筆、講演)の依頼は、お問い合わせ欄まで。