人は何に感動するのか?
僕は作品の中でも感動系の物語が多いので、このことについては特に考えている。
感動の一つにあるものは、こんな方程式であらわせるかもしれない。
感動=時間×苦労
まず時間だ。時間が長ければ長いほど、感動はより深まる。たとえば長期連載の漫画の最終回などがそうだ。
最終回は少なからずどんな漫画でも感動するが、それが好きで長く続いていた漫画ならば、より感動が深まる。
感動要素の少ない漫画でも、最終回はちゃんと感動できる。
よく子供の運動会などで、子供が走る姿を見てお母さんたちが泣いているが、あれは育てた時間に子育ての苦労が掛け算されているからだ。
懸命に育てた子供が、こんなに走れるまで大きくなったのかということに、大きく感動しているのだ。これがなんの苦労もなく勝手に育ったニュータイプの子供ならば、これほど感動はできない。苦労が多ければ多いほど、感動が強くなる。
マラソンや登山になんの苦労もなければ、誰もやらないだろう。苦労を重ねるからこそ、ゴールで感動できるのだ。
この方程式を強く認識した作品が、ドラマの『フレンズ』だ。
アメリカで大人気だったコメディドラマだ。男女6人がいつも一緒に集まり、えんえんとだべっている。彼らはいつも一緒にいるので、モニカという登場人物の部屋の合鍵を全員が持っている。このモニカの部屋が、彼らの基地だ。
僕はこのドラマが大好きで、かかさず見ていた。10シーズンも作られている。一話だいたい20分で、一シーズンにつき24話。つまり全部で4800分。80時間も費やして見ていたのだ。
それがとうとう最終回を迎える。6人は拠点であったモニカの部屋から旅立ち、それぞれが新たな生活をはじめることになった。永遠に思えた6人の日常は、これで終わりを告げる。
最後6人はテーブルの上に、合鍵を一本ずつ置いていく。彼らが肌身離さず持っていたあの合鍵だ。テーブルに乗せられた6本の合鍵が、画面にあざやかに映し出される。
この6本の合鍵を見て、僕はすごく感動した。
いい映画やドラマというのは、特別なワンシーンというのがある。物語のすべてのこもったワンシーンがあれば、それだけで成功だとすら思っている。
自分の小説でも、こういうワンシーンを作るように心がけている。僕の小説は映像っぽいとよく言われるが、たぶんこういうところからくるものだろう。
まさしくこの6本の合鍵は、完璧なワンシーンだった。この何年間見続けていた時間と苦労がかけ算となった上に、この6本の合鍵で最大化された。
これが最終回を見ただけならば、なんの感動もない。ただ鍵が6本置かれているだけだ。
80時間という時間をフレンズの登場人物たちと共有したからこそ、これほど強い感動が生まれたのだ。
これを考えると、長期連載の上に最後のワンシーンですべての要素を集結させれば、最高の感動が生まれることになる。
今この条件にあてはまるのが、ワンピースだ。ファンなら誰でも知っているが、ワンピースの最終回はもう尾田先生は最初から決めている。つまり、宝石のようなワンシーンはもう構想の中にあるのだ。
ワンピースの最終回は、とんでもない感動が生まれるんだろうな。
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