今大学の文学部で、学生さん向けに講義をさせてもらっている(二回だけだけど)。僕の講演会を聞いてくれた大学の先生から依頼されたのだ。
学生が講義の前にエッセイを書いてくれたのだが、
「プロの作家になりたい」という人が何人かいた。
これを見て、はたと考え込んでしまった。
プロの作家ってなんだろうか?
一応僕もプロの作家のはしくれだが、資格みたいなものはない。これまでは小説の新人賞をとってデビューというのが一応プロの登竜門となっていたが、別に新人賞を取らなくてもプロになっている作家さんはいくらでもいるし、現在はネットで小説を発表し、それが人気を得てデビューする人も多々いる。
ただデビューできただけではプロの作家とは言えないと考える人もいるだろう。
プロという言葉には、「その職業で飯が食える」という意味合いがあり、それを含めるとデビューしたぐらいではプロ作家とは言えないからだ。
しかしプロの作家でも今は兼業しているか、パートナーと生計を立てているケースが大半だ。飯が食えるという意味合いはほぼ消失している。
まず出版業界は絶賛右肩下がりで、回復の兆しは一向に見えない。漫画の売り上げが最盛期に比べると三分の一になったというデータを見たが、漫画よりも規模の小さい小説のスケールダウン感はそれ以上だ。
さらにNetflixやspotifyのようなストリーミングサービスが増えはじめ、これまでのコンテンツを一つ一つ買うという習慣が消えつつある。
CDが売れなくなってミュージシャンの収入が激減している。人づてに聞いても、ミュージシャンの景気はかなり悪いようだ。いずれ作家もそうなるのは目に見えている。
ミュージシャンはライブなどで収入を得る方向にシフトを変えているが、作家はライブはできない。まあ舞台で小説を書いて見てもらうことはできるが、お客さんは一分で飽きるだろう。コンテンツ販売からの印税収入がなくなると、作家はミュージシャンよりも厳しくなる。
芥川賞や直木賞などの有名な文学賞を取っても、プロの専業作家が難しくなる時代が早晩くる。専業作家という言葉も死語になるかもしれない。
しかもネットの普及で、アマチュアとプロの境が消えつつある。
現在『小説家になろう』に掲載されている作品数は40万で、登録者数は80万とのことだ。
「えっ、そんなにみんな小説書いてるの?」と驚きたくなるほどの数だ。40万もあれば、プロ作家の小説を凌駕する作品はゴロゴロある。
ネットというのは、中間層破壊装置だと言われている。
これまで生計を立てられていたプロ作家達が、ネットいう発表媒体を得た創作意欲旺盛なアマチュアに駆逐される。残るのはトップのごくごく一部の作家だけになる。超一流だけが残り、一流、二流のプロ作家は退場を余儀なくされるのだ。
これは作家だけでなく、あらゆる業界で起きている現象だ。プロの新聞記者がブロガーに、プロの写真家がインスタグラマーに、プロのテレビ制作者や芸人がユーチューバーにその立場を追い込まれている。
これまでプロが独占していた領域はどんどん狭くなっているのだ。
この現状で、「プロの作家になりたい」と無邪気に言われても……というのが正直な僕の感想だ。
けれど作家の現状も未来もだいたいわかっているが、僕は別に書くことをやめようとは一切思わない。単純に書きたいものが山ほどあるからだ。作家とはそういうものだろう。プロという言葉にとらわれると、本質的なものが見えなくなるかもしれない。
ということでその学生さんには、今の作家の現状を教えてあげて、「それでもプロ作家になりたいんであれば目指してみたら」と言ってあげることにしようかな。
コメントを残す