時々古典ミステリーの序盤などで、犬や猫が変死するシーンがある。これはこれからは起こる凄惨な事件の不穏な空気を伝えるものとして描かれることが多い。いわば暗示だ。
殺された犬や猫の飼い主は悲しんでいるのだが妙にあっさりしている。古い小説なので、これが時代感覚とでも言うのだろうか。現代のペットの飼い主ならもっと大騒ぎしているし、もっと悲嘆にくれているに違いない。
ミステリーとは殺人事件を主に扱うものだが、ならば動物でも成立するのではないだろうか。ペットブームでもあるので、みんな興味を持って読んでくれるかもしれない。そんなことを考えて、この『私を殺さないで』を書くことに決めた。
小説を書くとなれば、まずは取材だ。獣医さんやペット業界の人に話を聞いているうちに、衝撃的な事実を知った。
現在殺処分されている犬や猫は年間4万頭もいる。つまり4万もの命が、一年で奪われているのだ。
これはとんでもない数だ。安易にペットを飼った人たちがペットを捨てる。その理由は「子犬で可愛いから飼ったけど、大きくなって可愛くなくなった」「引越しで飼えなくなったから」、中には「新しく犬が欲しくなったから、この犬はいらない」という理解不能なものもあるそうだ。
そして保健所や動物センターに収容され、そこでペットたちは殺処分される。
正直怒りではらわたが煮えくりかえった。 家族同然とも言えるペットを平気で捨てる人間がいる。しかもこんなに大勢。その事実に信じられない思いがした。性善説など嘘だと断言できるほどの非道だ。
取材を終えた時点で、書くかどうかかなり迷った。想定ではもっと軽いミステリーを考えていたのだが、これではかなりヘビーなものになる。
だがそういう不都合な事実を伝えるのも作家の役割ではないのだろうか。そう思いなおし、この小説を完成させた。
『22年目の告白』のように、二転三転する展開だ。 取り扱っている内容がデリケートなだけに、これだけエンタメの要素を入れると不快な思いをする人もいるだろうが、ここはあえてドキドキハラハラする面白さを盛り込んだ。
娯楽という仕事に20年近くも携わっているので、どれだけ正しくても面白くなければ誰も見向きもしないことを知っているからだ。
この小説を書き終えたとき、アキナというお笑い芸人の単独ライブに呼んでもらった。そこでアキナが『鳥』というネタを披露していた。
驚いた。この『私を殺さないで』と着想の部分が一緒だったからだ。その後アキナの山名と話しして、どうやって鳥のネタを思いついたかを訊いた。
この鳥のネタはキングオブコントというお笑いの大会で披露され、一部炎上した。おそらく『私を殺さないで』も多くの人が読めば、そういう可能性があるだろう。
特にオチは賛否両論あると思う。ありえないと思う人が多数かもしれない。だが普通ではありえないという理由だからこそ、このオチしかないと僕は考えている。
『私を殺さないで』を読んだあと、ぜひアキナのネタも見てください。
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